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日記とか好きなものとか。 オタク趣味全開です。女性向同人要素もバリ発言します。 嫌悪感を抱くという方はどうぞお読みにならないで下さい。
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数年間書き淀んでたテキストをOmmWriterで開いたら思いのほか筆が進んでなんとか書ききったのはいいけれど、HTML書くのが面倒すぎてブログに投下するという面倒くさがりが極まったような暴挙です。
SSS付というカテゴリに投下されてる割には話が長い。
続きリンクより本編です。

※ご注意
・ロイエド、エド女体化
・原作設定の未来捏造
・死ネタです
・オリキャラ出てきますというかオリキャラ視点です

※ロイエド子、未来捏造、死ネタ、オリキャラ出てきます注意






 ある朝、庭に出た祖父は空を見上げて言いました。
「今日は死ぬにはいい日だ」とそう、確かに。


「あの子はとにもかくにもせっかちでね、逝くのも先だった」

 祖父は祖母――彼の妻であり私の母の母――の話をするときはいつも“あの子”と呼んでいました。
 二人は十四も歳が離れていて、初めて出逢った時、祖母はまだ十一歳だったといいます。歳の割に身体の小さな子供で(祖母は特に身長と胸の大きさについてコンプレックスがあって、それを揶揄すると烈火のごとく怒りを顕わにしたと云います)、ひょんな事から祖父に性別のことが露呈するまではずっと男性と思われていたそうです。
 複雑な事情を経て、祖父が後見人となって祖母は今では廃止された“国家錬金術師”の資格を取りました。その後、祖母が資格を返上して祖父と結婚に至るまで、二人の出逢いから実に10年近い歳月を経たとのことです。ですが、その間に伸びた身長も祖父には遠く及ぶこともなく、並んだ姿は兄妹のように今でも古い写真の中で笑っています。

 私は祖母のことをよく知りません。祖母は私が生まれる前に死んでしまいました。
 祖父に祖母のことを訊くと彼女を思い出すのか、彼はいつも笑顔とも泣き顔ともつかない曖昧な表情を浮かべるのです。祖父が言うには、寿命については祖母本人から聴かされていた事だから覚悟していたそうです。それでも全身全霊を傾けて愛した唯一無二の、最後で最愛の人を失った喪失感は言葉にならないぐらい深く胸を抉り、祖母の後を追いかけようかと朝も夜も、当時はそのことばかり考えていたそうです。
 しかしそれを思い留まらせたのが私の母とその兄、つまり祖父が祖母との間に授かった二人の子供だったそうです。二人が育んだ子供達を見ていたら、死して尚も胸の一番深く、温かい場所で変わらぬ笑顔を浮かべる祖母の姿が鮮やかに浮かび、後を追ったりしたら彼女は絶対に自分を許してくれないだろうと思い至ったそうです。

「十六の頃にかなりの無茶をしたらしくてね、その所為で少し寿命が縮まったんだってあの子は言っていた。だから私より先に死んでしまうかもしれない。それでも許してくれるか?って…今にも泣きそうなのを我慢しているような顔だった。……でもね、私にとって、そんなことはどうだってよかったんだ。私は何があっても彼女と共に在りたかった。彼女と共に息ができる、ただそれだけで良かったんだ」

 その時の事を思い出しているのでしょう、庭を見つめる目は遠くを見るように細められていました。慈愛という言葉を人の顔で顕すならばまさに今の祖父の顔をいうのでしょう。

 祖母が生まれたのはリゼンブールという東部の村です。祖父や私の家があるセントラルから汽車に乗り、東部の中心地であるイーストシティで汽車を乗り継いで半日ほど掛かかります。セントラルと比べると驚く程何もない、碧い山並みと緑の草原に気持ちのいい風が吹く、穏やかでやわらかい場所です。私も祖父や母に連れられて何度もその村を訪れています。祖母の遺言で、彼女はこの村の共同墓地にある祖母の両親のお墓の隣に埋葬されたからです。
 祖母の生家は村の小高い丘の上にあったそうですが、祖母が国家錬金術師の資格を取り彼女の弟さんと村を旅立つその日に焼き払ってしまったそうです。何故祖母がそうまでして旅に出たのか、その決意の程を私は知りません。ですが、祖母の弟さん――アルフォンス叔父様に少しだけ伺ったことがあります。もう後戻りはしない、出来ないようにと二人で決めて焼いたそうです。曾おじい様には何も焼くことはないだろう、と叱られてしまったそうですが。

 曾祖父は私の母が生まれるより前、まだ祖父と祖母が結婚する前に亡くなったそうです。
 祖母が16歳の頃、――アメストリス暦1915年の春、国家を揺るがす大事件がありました。アメストリス全土を揺るがす巨大で邪悪な錬金術実験を企てた軍上層部を、当時国軍大佐だった祖父の率いる部隊、“ブリッグズの北壁”の異名を取ったアームストロング元少将率いるブリッグズ兵、そして祖母と叔父様、隣国シンの皇子と皇女らが協力して陰謀を阻止しました。今では彼らがクーデターを起こした日が日蝕だったことにちなみ『日蝕事変』と呼ばれ、教科書にも登場する程の大事件としてアメストリスの歴史に刻まれています。
 日蝕事変が収束し、准将に昇進した祖父は、国を建て直す傍ら、公私に渡り永久の伴侶として祖母を選びました。祖父が言い張るには、

「最初から有無を言わせるつもりは無かったんだが、私が言うより先に向こうから熱烈なプロポーズをされてしまってねぇ……本当に、男としては情けないの一言に尽きる」

とのことで、逆プロポーズの衝撃はしばらく癒えなかったといいます。しかも、若かりし頃は数々の浮き名を流していたという祖父にして熱烈と言わしめたプロポーズをした祖母は、何とそのまま旅に出てしまったのだとか。事変から2年過ぎ、祖母とアルフォンス叔父様が東西に別れて異国の叡智を求め集める旅に出ることは二人で決めたことで、祖父もそれを名残惜しい気持ちをひた隠しにしながら後押しし、恋情をひたすら堪えながら駅でその出発を見届けるはずだったのが、発ち際にとんでもない爆弾を落とされた祖父の落胆には同情する他にないでしょう。

 逆プロポーズより二年の後、大総統に指名された祖父がアメストリスへ帰国した祖母へ改めてプロポーズし、任命式と同日に盛大な結婚式が執り行われました。祖母が日蝕事変に関わったという公式な記録は残されてはいないそうですが、当時現場に居合わせた軍人らや目撃した一般人らの噂かから『救国の少女』と、些か本人にとっては不満だったらしい通り名で呼ばれていた少女が『救国の英雄』と謳われた新大総統の妻になったことで、世間は否応なく盛り上がり、新政権の誕生に国を上げてお祝いをしたそうです。

「すごく綺麗だったんだよ、愛と美の女神も裸足で逃げ出すぐらい綺麗だった。そのことを口に出したら真っ赤になって殴ってきて……その後に、私があまりに格好良くて心臓が止まるかと思ったって、そう言ってくれたんだ。本当に本当に嬉しかった。何もかもまた、新しくここから始まるのだと思うと胸が高鳴って、隣にはあの子がいてくれて、私は世界一幸福な男なのだと思ったんだ」

 祖母はよく夫を支え、祖父は何よりも妻を愛し、幸せな結婚生活を送ったそうです。やがて二人の間には男の子が生まれ、続けて女の子――私の母が生まれました。男の子は父親に似てカラスの濡れ羽根色の髪に夜を孕んだオニキスの瞳、女の子は蜜色の絹のような髪に夜を照らす月色の瞳と、両親の特徴を余すことなく継いでいました。そんな二人を祖父母は心から愛し、慈しみ、育みました。辛いことや悲しいこともたくさんあったと思います。それでも、昔を語ってくれる祖父の顔はそれを感じさせません。ただただ、幸せだったのだと。祖父はそう教えてくれました。

「お前は本当にあの子にそっくりだね。男達が放っておかないだろう」

 祖父は私の頭を撫でて言います。

「こうしてお前を見ているとね、あの子と初めて逢ったときを思い出すよ。出逢いとしては……最悪だったかもしれないな、私は頭に血が上っててあの子の胸ぐらを掴み上げたし、あの子はあの子で大きなショックを受けた後だった。それでも立ち上がってみせると、泥の河であろうとも、茨の道であろうとも、進んでみせると決意をした、あの焔の点いた眼だけは、一生忘れられないんだ。……あの時から私は彼女に魅せられているんだよ」

 しわを深くして笑む祖父の顔は、老人でありながら少年のようでも青年のようでもあり、私はずっと祖父が祖母に恋をしているのだと知りました。二人が出逢い、寄り添い、別れるまでの歳月を、ただ一目だけでもこの眼で見つめることができたなら。叶わぬ願いを私は想いました。

「ジル、ありがとう」

 祖父が祖母と二人で庭に植えた木蓮の梢が、さわさわと風に鳴っていました。


 祖父が倒れたのは、その三日後のことでした。


 私が病室に着いた頃にはもう祖父の意識はありませんでした。正確に言えば、搬送される前から意識はなかったそうです。母の兄夫婦が祖父と同居していたのですが、朝食の時間になっても現れない祖父を訝しみ、伯母が部屋を訪れた時には既に意識はなく、身体は弛緩し始め、糞尿を漏らしていたと聞きました。すぐに救急車が呼ばれ搬送される間も懸命な心肺蘇生が行われましたが、意識が戻ることはなく、私の目の前に横たわる祖父は人工呼吸器によって辛うじて生きている状態でした。生きているというよりは生かされていました。祖父の脳はもう回復しないそうです。人工呼吸器が外されれば自然に呼吸は止まり、心臓も止まり、死んでしまうのだと。
 誰もが口を閉ざしていました。病室には伯父と伯母、私の父と母、お医者様、看護士の方が数名。母の兄夫婦には子どもがいますがそれぞれが離れて暮らしており、祖父の孫の中で唯一この場に居合わすことが叶ったのは私だけでした。告げるべき言葉はあるはずなのですが、親族の誰もがそれを躊躇いました。躊躇わないわけがないではないですか。誰かが、――この場合は伯父が口にすべきではありましたが、世界でたった一人の自分の父親なのです。そんなに簡単に、言えるわけが、ないではないですか。

「お願い……もう逝かせてあげて……」

 しかし私には耐えられませんでした。三日前の祖父を思い出すと我慢できませんでした。
 
「逝かせてあげて……おばあちゃんの処に……」

 それまで必死に堪えていた涙が堰を切って溢れ出しました。私は泣きじゃくりました。半生を共にし、死して尚も恋し、愛し続けた祖母の許へ早く逝かせてあげたかったのです。三日前、あの庭でお話をしてくれた祖父の声音を、やさしい顔を思い出すと、一秒でも早く会わせてあげたかったのです。恐らくは常人の何倍にも険しい人生を歩んできた祖父にとっての祖母は、光だったのではないかと思うのです。二人の間にどんな出来事や、心の機微があったのかを全て計り知ることはできません。しかし庭を眺め、祖母についての思い出を語る祖父の瞳にあったのは、確かに光だったと思えるのです。
 それまで沈黙していた伯父がお医者様に一言告げ、祖父の人工呼吸器は外されました。祖父の命が終わるその時まで、私は涙する母に抱きしめられながらそれを見送りました。うっすらと祖父の唇が笑んだように見えました。それは非常に穏やかな面持ちでした。

 祖父の遺体はリゼンブールにある祖母の墓の隣に葬られました。国家を代表する大総統の職を経験した人間の墓としては驚くほど質素な墓でした。埋葬には親族の他には軍属時代の腹心の部下が数名と、アルフォンス叔父様のご家族だけが立ち会いました。全て祖父の遺言によるものでした。まさか国葬などと大仰なことはしてくれるな、という内容でしたが祖父の立場を考えるとそうも言っていられず、日を改めて追悼式を行わせてほしいと政府から連絡がありました。過去のイシュヴァール内戦では戦犯に当たる人物ではありますが、アメストリスを軍国主義から民主主義へ転換させるための最初の舵取りを行った人物でもあります。一個人として死なせるにはあまりにも大きすぎる過去を祖父は背負っていました。祖父の遺志には反してしまいますが、親族として政府の申し出を受諾しました。




 私のお墓の前で泣かないで、という歌詞の歌があったなぁと私は思いました。その歌に拠るならば、祖父は死んでなんかいなくて、風となってこの世界に吹いているのでしょう。きっと傍らには祖母がいて、ふたり並んで仲良く世界を巡っているのでしょう。私の脳裏には祖父と祖母が若かった頃のあの写真が思い出されていました。黒髪の精悍な青年と、金色の髪の愛らしい少女。再び出逢った二人は、もっとも輝いていた時の姿で、固くその手を結び、誰もの胸を温かく照らすような笑顔で寄り添っているのでしょう。リゼンブールの丘陵を抜けていくこの風の穏やかさは、きっと二人の愛。あなた達の愛は、私に確かに繋がっています。今度は私が、繋いでいきます。

「ジルニトラ!」

 私を呼ぶ声がします。並んだ墓碑に別れを告げ、私は夫となる人の許へ歩き始めました。



(おわり)
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はじめましてm(__)m
はじめまして。かなり頻繁に通わせていただいています。はろうと申します。
静かで悲しくて、でも不幸じゃないお話に涙が止まりませんでした。
しばらくこのまま余韻にひたりますね。
素敵なお話をありがとうございました。
はろう 2012/10/09(Tue)22:48:03 編集
Re:はろう様
はじめまして、りんこと申します。
ワンダーラスト、読んでいただきましてありがとうございます。
死ネタではありますが、ただ暗いだけのお話ではなくて、二人が幸せに生きたという結末を書いてみたくて、でもなかなか最後が浮かばなくて、かれこれ五年ほど溜めていたお話でした。
ふとデータを開いたら不思議と続きがするする出てきて、ようやくおじいちゃんロイはエド子のいるお空へ旅立つことが出来ました。
最後まで見守って頂きありがとうございました。
【2012/10/18 22:00】
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